母上はこの上もなく蟹を愛しているので。
朝から残りの川蟹をせっせとほぐしていた。
その残骸はお見事なほど。
しかしこの残骸はポイと捨てるのではない。
藻屑の箇所を丁寧に除いた後に。
雑炊の出汁として利用するのである。
せっせとほぐした身は甲羅に丁寧に分ける。
ひとつは内子(卵)と味噌だけを集めたもの。
もうひとつは身だけを甲羅に集めたもの。
内子と味噌の甲羅には醤油をたらりと落とし。
コンロのゆるい火で温めるのである。
味噌がプツプツとしてきたら食べごろ。
身の方はそのままでぬる燗のお酒をたらりと落とす。
適度なお湿りが出て頬張りやすくなる。
これらを交互に食したり一緒に頬張るのである。
飲み物は当然に日本酒のぬる燗が良い。
味噌のねっとりした脂を落としてくれて。
またぞろ箸がすすむのである。
完食後は甲羅にぬる燗をそそぎ。
甲羅酒を決め込む。
これがまた旨いのである。
但しこれだけではお腹が持たないので。
フィニッシュとして食べるのがサッポロ一番。
温玉を落としてズズズッとすすり終えて終了。
母上の蟹への執念には脱帽であり。
その恩恵に預かっている我が身は幸運であり。
笑顔でご馳走様と言えることを感謝するのである。