メイド喫茶。

釣り名人のT氏から。
メールが届いた。

“本日、時間ありますか?”

   ◆

折り返しに電話を申し上げた。

「パソコン買いますの?」
日本橋に出撃したいんですけど」
「行きましょ!」

数十分後に待ち合わせをし。
氏の車に乗っかって日本橋を目指した。

   ◆

「まとまった給料が入ったんで決心がつきました」
「景気よろしいがな」
「来月は素寒貧ですわ」
「よう、云うわ」

そんな話しをしつつも。
高額な買い物をするT氏は。
やや興奮気味なご様子である。

   ◆

日本橋に到着し。
大通り筋の店を片っ端から覗いてみる。

・・・。
・・・浦島太郎状態。

全く分からない。

   ◆

「ごめん、役に立ちそうにないわ」
「何でですの?」
「仕様も、金額も、何もかも違うねん」
「なら、どうしたらよろしい?」
「正直そうな店員に訪ねて、指南を乞うのが得策だと思う」

一通り店を回っていたら。
余計にどうしようもない状態になってしまった。

   ◆

「Tさんはどんな使い方をしたいの?」
「インターネット、写真の加工修正、ゲームかな」
「なら、それを店員にぶつけてみようよ」
「ええ」
「あとは予算も伝えたら、選んでくれるよ」

某ショップの店員さんに訪ねてみた。

「パソコンを初めて買うんですが、
 かくかくしかじかのような使い方なんです。
 お薦めはございますか?」
「なら、こちらのパソコンになります」

   ◆

あまりに専門的な言葉を使われても。
もうチンプンカンプンで分からないが。
必要最小限で構成しているパソコンを指さしている。

「ほんじゃ、これ」

T氏も腹を据えて決心した。
インターネット仲間が一人増えた。

   ◆

「ちょっとぶらぶらしましょか?」

そう云えば。
T氏はこの近所のメイド喫茶の常連客だった。

「例の喫茶店に連れて行ってくれるの?」
「ええ、まぁ」

   ◆

スタスタ歩く氏の後を。
必死に追っかけて行った。

「ここです」
「いっや~、ドキドキするなぁ・・・」
「普通の喫茶店ですよ」
「ほんまぁ~?」

   ◆

扉を開けると・・・。

「お帰りなさいませ、ご主人様~」

うら若きメイド服のお嬢さんが声をかける。
数年前に物見湯山で入った東京の店以来である。

ちょっと緊張。

   ◆

しか~し。

とっても驚いたのは。
店にいらっしゃるメイドさんのほとんどが。
T氏にとても愛想良く。
ひと言ふた言と挨拶するのである。

「顔やんか」
「そんなこと無いですって」

   ◆

そんな会話をしていると。
可愛いメイドさんがやってきて。

「この前お借りしてた本です。ありがとうございました」
「いやいや」
「もう一冊は私のプレゼントです」
「どうもどうも」

   ◆

・・・プレゼント?

「Tさん、隅に置けませんやん」
「そんなんと違ゃいますって」

   ◆

T氏は手を振って否定しかかるのだが。

また、もう一人の。
これまた可愛らしいメイドさんが。
私の方を向き。
ニッコリ顔でおっしゃるのである。

「私の大事なパパなんです」

・・・大事なパパ?

   ◆

「だから、違ゃいますって!」
「ねぇ~パパ、何が違うの?」
「実年齢が彼女のパパなんですわ」
「パパ~、誰がそんなこと信じるの??」

   ◆

氏は急に話題を変え。
逆襲に走り出した。

「そうだ、彼女達と一緒に写真を撮れますよ」
「一緒に撮る?」
「今日は人も少ないしチャンスですわ」
「いや、十分楽しんだよ」
「ポイント券はいっぱいあるんで何枚でもOKですよ」
「恥ずかしいから、よろしいわ」
「呼びましょか?」
「いや、結構です」
「せっかく来たんだから、記念に撮りましょうや」
「あかん、あかん」

   ◆

慣れない緊張感で困ってたので。
次回は是非とお願いし。
ご馳走様と云って。
席を立った。

「こんなに短時間で店を出るのは初めてですわ」
「だってパパ、パパがパトロンに見えたんだもん」
「普通ですやん」
「パパ、嬉しそうな顔してますよ」
「また顔出しますか?」
「その前に日記の話題にさせてね。パパ~」

   ◆

と云うことで。

眠気が吹っ飛んだ体験を。
とっても久しぶりに。
堪能することが出来たのでありました。

  ◆ ◆

「ロッジ」欄、更新完了。