バイト時代2 その1

当時のロッジの支配人は暴君の権化のような人だった。
気にくわないと怒鳴る、罵(ののし)る、最悪は手が出る。
およそ接客業に携わる人ではなかった。

ロッジの設備が古くなっても、何とか修理をしていた。
一人で直すならいいのだが、必ずバイトが手伝いとして呼ばれた。
そのバイトが思う通りに動かないとカッカッしだして怒鳴っていた。

水は山からホースを引っ張って賄(まかな)っていた。
夏はともかく、真冬の厳冬期には往生した。
ホースが寒さのため凍るのである。

厨房にドバドバッとほとばしる水の出が悪くなると号令がかかった。
凍りつつあるホースの水を融かしに行くのである。
(冷え込む夜には頻繁に号令がかかる)

先ず防寒着を着用し、帽子を被り、スキーブーツを履き、手袋をはめる。
その頃には厨房からお湯たっぷりのドデカイ薬缶が運ばれてくる。
車に乗り込み、山のホースのある場所へGO!

支配人は無言で車を運転するがピリピリしている。
そんな異様な緊張感と共に助手席に座り込む。
到着すると車のライトは駐車場で点灯したまま。
(消して進めば道に迷う可能性もあるため)
熱っつい薬缶を両手に持たされて雪中強行軍と化す。

除雪されていない雪山での行進は口から心臓から飛び出る。
支配人はそんなことに構わずドンドン進む。
その後ろを遅れまいと必死に付いて行く。

ある場所で支配人はくわえタバコで立っている。
「ここを掘れ!」
薬缶からスコップに変えてドスドスと掘り進んでいく。
2mくらい掘っていると、ドン!っとホースに当たる。

これにお湯をドンドン掛け流して融かしていく。
薬缶のお湯がすべて無くなると雪で埋めなおす。
この行程の緊張感は半端ではなかった。
終始無言で上から眺められ、テキパキと指示が飛んでくるだけだった。
指示通り動かないとこつかれた。

そして降りていき、ロッジに戻るのである。
戻ると厨房に行き、水の出を確認する。
元通りにドバドバ出ていれば任務終了。

==つづく==