横になってるだけ。

酔っぱらいの帰宅時間帯に。
仕事をしているだけあって。

早朝は酔っぱらいをよく目にする。

電柱に抱きついたままの酔っぱらい。
重力に負けて座り込む酔っぱらい。
側溝に片足を突っ込んで寝ている酔っぱらい。
タクシーから出て来ない酔っぱらい。

いろんな酔っぱらいに出会っているが。
ほとんどが男である。

冬なら凍死も心配するので。
声をかけてみるが。

夏など風邪くらいだろうから。
放っておくのが私流。

しかし今朝は違った。
年の頃なら20代後半の女性。

仰向けで寝っ転がっているではないか。
バイクを止めて検視である。

血は出ていないか。
口から泡は吹いていないか。

どうやら事件性はないと判断し。
起こしてみることにした。

薄目は白目を向いていたが。
どうやら大丈夫そうなので。

眠っている酔っぱらい女性の。
肩を揺すってみた。

反応がない。
仕方なくもっと揺すって声を出した。

「大丈夫か?」

すると。
うんうんと肯いている。

「ここは寝る場所と違うよ」

そう話しかけると。
遠くで聞こえる声に。

視点の定まらない眼差しで。
おっしゃるのである。

「横になってるだけだから」

面倒臭そうに話しつつ。
横を向いて寝返るので。

「風邪ひくなよ」

無駄と分かりつつ。
そう申し上げて後にした。

もしも。
いたずら心が沸き起こっていたら。

油性のマジックを持参して。
レディーガガみたいな目玉を書いてたな。

それにしても。
つくづくと思ったのである。

まだまだ日本という国は。
世界に誇って良い治安の良い国なのだと。

一応気になって。
20分後にもう一度その場所に行ったが。

その酔っぱらいは。
帰路に着いたらしくいなかった。

そんな時にふと気づいたのは。
酔っぱらいもわきまえているのか。

道路の端で寝転がっているのは多数いても。
ど真ん中で大の字格好を見たことがない。

酔っぱらいなりに。
身の安全は確保しているのだろうなと。

もちろん今朝の女性も。
道の端っこで寝転がっておりました。