通学沿線、気になるあの子。その2。

「おはよう」

それだけが5分の会話だったんだけど。
時間が経つにつれて。
横に並んでくれるようになった。

そうなると。
前に空席があっても座らず。
今日も横に来るとの確信を持ちつつ。
つり革に手を持って次駅をウキウキ待っていた。

   ◆

同じ時期。
急激に髪の毛が抜けてきた。
拠り所のない不安感。
電車ではドキドキして一生懸命になっても。
一向に延びない試験結果。
(当たり前やわね)

やっぱり考えた。
「いったい、どっちを選ぶねん!!」

そう自問自答しつつも。
毎朝の電車の時刻に囚われてしまっていた。

で。
合理的な答えを見出した。
「どっちとも頑張る」

そんな訳は無い。

   恋は盲目なんだわ。

   ◆

そんなある日。
大学に入学した友人から電話があった。
(携帯なんて無い時代)

「飲みに行こう!」

興味本位と学生生活を聞きたい一心で。
夏の暑い日の晩。
ある居酒屋に集合した。

居酒屋は初体験だった。
ちょうどその頃。
酎ハイが爆発的なブームだった。
友人は酎ハイを勧めるので。
酔い加減も分からないまま。
勧められるままに。
ゴンゴンと飲んでいた。

そうすると。
店も混み始めてきたからか。
店の女将が応援を頼んだ。

「○○子ちゃ~ん、お客さんの注文を聞いて!!」
「は~い!」

酔い心地でフ~ッと振り向いたら。

私服姿の。
通学沿線、気になるあの子が。
せっせと働いていた。

   ◆

  ???

   ◆

気持ちが一気に張り詰め。
どれだけ飲んでも。
その日は酔わなかった。