敬服し、感服す。

信州は諏訪に在住の。
ご友人から突然電話があった。

このご友人とは。
学生時代のロッジまで遡る。

珍しいこともあるなと思い。
電話に出たら。

ちょいと寒そうな感じだけど。
いつもの声が耳にとどいた。

「ちょっと教えて欲しいんだけど」
「まいど、どないした?」

「松本さんの墓がないの」
「・・・は?」

  ◇ ◇ ◇

このご友人。
昔からちとチグハグなリズムをお持ちで。

故松本さんからは。
よ~く、こう云われていた。

「たのむわぁ~」

  ◇ ◇ ◇

「墓のこと何か知ってる?」

  ◇ ◇ ◇

このご友人はその昔。
一人で墓参りに出向いたは良いが。

場所が分からずに。
一回しか墓参りをしたことのない私に。

現場に今いるからと。
リアルタイムで墓の場所を教えろ。

そんなことをおっしゃる。
篤実な人柄の方であった。

  ◇ ◇ ◇

「松本さんの墓の場所は・・・」

また忘れたのかと思い。
墓の場所を教えようとしたら。

「ちがうの、墓石がないの」
「・・・は?」

  ◇ ◇ ◇

「あんた、何云うてんの?」
「松本さんの墓の前にいるんだけど、
 墓石が立ってないんだよ」

「それって土台しかないの?」
「そうそう、そうなの」

「そんなこと聞かれても想像付かんけど・・・」
「松本家の墓石のないお墓の前なのよ」

笑い話である。

  ◇ ◇ ◇

「豪雪地帯だから片付けてるのと違ゃうの?」
「あははは、他の墓石は全部立ってるよ」

「分からんから、住職に訊いたら?」
「それが今、車でどこかに行ったみたいなの」

ちなみにこのご友人。
間というかタイミングも昔から悪い。

  ◇ ◇ ◇

話しながらも。
今日は寒いことを思い出した。

「雪は大丈夫なん?」
「今朝の諏訪は雪があったんで迷ったんだけど」

「迷ったけど行ったん?」
「飯山は雪の予報でなかったから」

「しかも今日は金曜日やん?」
「仕事を休んだんだわ」

いつもなら毎年6月に墓参りをするのだが。
今年は忙しくて本日になったのだそうだ。

  ◇ ◇ ◇

「松本さん、喜んでると思うよ」
「だったら良いんだけど・・・」

  ◇ ◇ ◇

私はいつからか。
人は生きてこそと思うようになっている。

だから元気なうちに。
どんどんとお会いするようにしている。

その代償として。
墓参りはどこも不義理だらけ。

勝手な言い訳だけど。
それも仕方ないと思っている。

  ◇ ◇ ◇

だけど。
本日のご友人の行動を聞くと。

ただただ。
敬服し、感服するだけである。

とてもではないが。
真似はできない。

  ◇ ◇ ◇

墓石のない墓の前で。
ご友人は故松本さんに言ったのだろう。

「また来年来るからね」